第10回・戦国時代はそこにある

前回、第10回は小説を取り上げる記念企画にする、と書いたが、諸般の事情で先送りになってしまいました。スミマセン。

それに変わる「戦国メディア市第10回記念特別企画」はいつもと趣向を変えて、一見関係なさそうなものを見ていこう、という物なのだ。では、いく。

  • NTTフェニックスミニのCMなんかどこぞの陣所のような物が現れる。そして、たいしょうらしきひとが「戦は飽きた!!」と叫ぶ(嫌いじゃ、だったかな)。その次に家臣らしき奴が吐く言葉が問題なのである。「ノブナガサマ!」・・・・・?その次がもっと問題である。「フェニックスミニでピポパ」信長が「なぁにがピポパじゃ」(この台詞だけは信長らしい)姫が出てきて「ワガママ言っちゃだめ」信長が「ウン」・・・・・・・・で、さいごに信長が「2台でイチキュッパ!」と叫んで終わりなのだが・・・・・。

    信長のイメージが失せるよ、これ。

    大体、あの将星録のAVIファイルですら苦情が出ているくらいなのだ。信長が「戦は飽きた」なんて口が裂けても言いそうにもないし、女(濃姫か、それとも吉乃か、鍋の方なのか・・・・謎だ)がごときに「ワガママ言っちゃだめ」といわれて、とろけるような声で「ウン!」などとほざくわけがなかろうが、たわけぇーーーーーーたわけたわけたわけたわけぇぇぇーーー どうせ信長でやるんだったら、秀吉の下にテレビ電話かけて「戦況はどうじゃ」と聞き「上々にござりまする」と秀吉が答え、「良し」。光秀にもかけて同じ事を聞いて「思わしくありませぬ」「たわけえ」と叱咤。次の日信長が本能寺に泊まっていると光秀が謀反・・・・の方が、確かにちょっと違うが面白いとは思うのだが。

  • 朝日新聞の連載小説「平成三十年」作者が堺屋太一だからか、登場人物がすべて戦国時代ゆかりの名前なのである。主人公・木下和夫、その同僚には、明智、柴田、坂井、斎藤、竹中、とこれまた織田家ゆかりの人々が。何よりも笑えるのは、木下和夫が務める情報産業省大臣・織田信介。経歴が、若い頃にソフト会社「オワリコン」を設立。そこで開発した「パソエン」がヒット。ついには、今川という政治家を破って衆議院に当選というのがすごい。これは一度読まないとだめですな。

・・・・・と二つしか紹介しておらず、やっぱり「手抜き」なのであった。

次のネタが見つからない筆者

(初出:「戦国メディア市・第10回」1997.10.10)


第9回・作者が、見知らぬ海へ

というわけで、2回続けて小説を取り上げてしまうわけである。もっと言えば、次回も小説を取り上げる予定なので3回続けて、と言う事になる。まあよい。今回は、隆慶作品を取り上げてしまうわけだ。

隆慶――正しくは隆慶一郎。この日との小説に感銘を受けた人は親しみを込めてこう呼ぶ。それで、今回取り上げる作品は「見知らぬ海へ」 この人の代表的作品と言えば、「影武者徳川家康」や、書店で「売れてます」とよく出た「捨て童子・松平忠輝」 し・か・し私が最初に読んだのは「時代小説の愉しみ」だったりする。これは、エッセイ集と言った方がいいかもしれない。織田信長、武田信玄、北条氏康や明智光秀に対する独特の考えが刺激的だった。それに、他の文章もものすごく面白くて、私としては珍しく、2回一度に読み終わるまで肌身はなさなかった(いつもは1回読み終わると2回目以降は家で読んでいる)。

次に「影武者徳川家康」を読んだのだが、これまたぶっ飛んだ。この本の読後、徳川秀忠に対する見方がかなり広くなってしまい「読んだ事を後悔した」と思ったくらい影響力ある作品だった。これら2作品は、またじっくりと触れる事があるかもしれない。

その次に読んだのが「見知らぬ海へ」だった。私としては初めての隆慶未完小説であった。隆慶一郎氏は急死であったため、多くの未完小説が存在する。が、この本の読後以降向井正綱がものすごく好きになった、というよりもこれを読むまでは向井正綱など知らなかった。父と義兄が釣りをしている間に居城で玉砕。「魚釣り侍」と罵られつつも向井水軍を徳川水軍の中核としていく様、小田原の陣の際の活躍などがダイナミックに書かれているのだ。おそらく、水軍武将を書いた小説では、これの右に出るものはないだろう。

ついでに書けば、この次に読んだ「死ぬ事と見つけたり」はさらに面白いのに未完で「俺の寿命を10年差し上げてもいいから続きを書いて欲しかった」と思わせたのだが・・・・・・これはまた後日改めてゆっくりと。

次回は10回記念をやる?筆者

DATA:講談社文庫、見知らぬ海へ

(初出:「戦国メディア市・第9回」1997.9.28)


第8回・織田信長小説のスタンダード

織田信長を題材にした小説というのは意外に少ない。前にも紹介した「鬼と人と」でも作者の堺屋氏は

『織田信長を題材にするのは長年の夢であったが、かつ、重い夢であった。「日本史の奇観」であるこの改革者の苦労を描くことだからだ。』(要約引用)

とまず最初に書いている。だからであろう。

私が最初に読んだ時代小説は井上靖の「風林火山」であったが、その次に読んだこの山岡荘八「織田信長」の方が最初に読んだ歴史小説、と思えるほど私にとっては印象深かった。

山岡荘八作品は人物にクセがある。そこがたまらない。独特の口調が人物の感じ、悲壮感、達成感、絶望感・・・等をうまくこっちに伝えてきてくれるのである。最も、この作品で一ヶ所だけわからりずらい場面があったが、歴史小説では少ない方だろう。その他の場面はいたっていい雰囲気なのである。読み進めやすいことがまたいい。資料の引用なども最小限である。5巻が長編とは思えないくらいテンポは速いのである。しかし、テンポが速いとはいえ、内容は濃い。私は何回か読み返している。

この作品はその後の私の史観に大きな影響を与えている。それくらいインパクトは強かった。それはいいことだったのではあるが、後々考えれば発表時期が少し早めだったので間違えているところも多く、後でちょこっと苦労した。とはいえそれを補うに十分な魅力がこの小説にはある。

織田信長小説はいくつか読んだが、「鬼と人と」を除いた一般名形式の物ではこれが1番良かった。「歴史小説を読んでみたいけどどれがいいかな?」と人に聞かれたら「まずこれがいいんじゃないか」と人に勧めるであろう。

短い文章すみません、とついでに言いたい筆者

DATA:講談社山岡荘八歴史文庫、織田信長

(初出:「戦国メディア市・第8回」1997.9.17)