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忘れ得ぬ雑誌

 かつてのメディア市において、やろうとやろうと思ってついに取り上げられなかったメディアがある。コンピュータゲーム雑誌「LOGiN(ログイン)」である。私が戦国時代に興味を持ったきっかけは小学校のときの社会の先生であったが、父の部屋にあったログインのおまけディスク「天下統一II」とめぐり合っていなかったら、『完全戦国年表』だなんてサイトを作るまでに至らなかっただろう。いや、それだけではない。私の興味体系ツリーは戦国時代の下にほぼぶら下がることを考えれば、ツリーの頂点に位置するのがこの「ログイン」といえよう。
 小学生時代の私が手にしたのは92年のログインで、そのころはPC9801が圧倒的シェアだったが、FMTOWNSも勢いがあり、X68000も健在で、MSXが最期を飾ろうとしていた時期だった。小学生の私には、分からない記事も少しはあったが、難解で読めないということはなく、新たなるステージへと移行する助けにはなったかと思う。その後、立ち読みの時期を経て、95年の初めからは毎号買うようになった。
 ユーザとしてのコンピュータリテラシーは、ログインに負う所が大きい。また、ログインによって得た知識は、ネタ的なるものから人生にとって全く必要のない無駄なものまで幅広い。ユンケルを始めて知ったのも不定期連載の「知らなかったほうがよかった世界」だ。銀河英雄伝説、ウィザードリィ、ファンタジー、声優、アニメ、映画など浅く広く素地を作ることが出来たのも大きかった。
 幅広く歴史を知ることが出来たのもログインのおかげだ。「風雲!史学塾」は、おもしろかった。「三国時代」には影響を受けた。学者ごっこでさかしらが跋扈する戦国時代愛好者フィールドで1人孤独を感じていた身として、三国志の正史と演義の棲み分けは羨ましく思えたものだ。
 何よりも、「れたぁず桃源郷」なり「バカチン市国」なり「お利口ちゃん倶楽部」なりのバカっぷりには、大きく影響を受けたと思う。私が面白くひょうきんに振舞うことが出来るようになったのは、これら記事のおかげだろう。まあ、笑いのツボが人と違うところにあるらしい遠因とも言えるが。
 寺島令子の「墜落日誌」は、私が中高生時代に単行本を買った数少ない漫画である。日歩の日常を綴る形式の漫画としてはエポックメイキング的なものだろう。楽しい人生とは何か、考える端緒ともなった。
 ログインに限らず、アスキー発行の雑誌は編集者の個性がやたらと強く、「出版業界は昼前に出て終電で帰る、締め切り前は徹夜」ということを知ったのもこの雑誌だった。そんなわけで自分も、タバコと缶コーヒーと栄養ドリンクで徹夜のDTPをやることを覚えてしまった。イクナイ。
 ログインは96年の真ん中から、以上のような濃い内容路線を捨て、普通のパソゲー雑誌になってしまった。が、これは必要な路線変換だったと言えなくもない。パソコン普及率が大きく上がり、普通のパソコンゲーム雑誌が必要だった気もするからだ。その頃にもなると、他に買うべき本が増えすぎて、コストパフォーマンス的に割に合わなくなったこともあり、毎号買うのは止めてしまった。今も昔の名残は見えないことはないが、最近は回りに書店がないせいか、手に取る機会も減ってしまった。
 ログインによって、私のアプリケーションとも言える対外インターフェイスはバラエティに富み、磨きがかかったと言える。ログインを下北沢の書店で買って、小田急線の準急でゆっくり自宅へ戻っていた日々が、今となっては猛烈に懐かしい。新しい発見にちりばめられた、幸せな一時であった。
 ところで、ログインには「メディアマーケット」なる記事があった。「戦国メディア市」は基本的に、テレビ・書籍・ゲームが色とりどりに並んでいる「市」という漢字からのネーミングなので、意図して真似たものではない。だが、私のベースとなった雑誌にそういった名前のページがあったことは、偶然とは言えない何かを感じずにはいられない。