第8回・織田信長小説のスタンダード

織田信長を題材にした小説というのは意外に少ない。前にも紹介した「鬼と人と」でも作者の堺屋氏は

『織田信長を題材にするのは長年の夢であったが、かつ、重い夢であった。「日本史の奇観」であるこの改革者の苦労を描くことだからだ。』(要約引用)

とまず最初に書いている。だからであろう。

私が最初に読んだ時代小説は井上靖の「風林火山」であったが、その次に読んだこの山岡荘八「織田信長」の方が最初に読んだ歴史小説、と思えるほど私にとっては印象深かった。

山岡荘八作品は人物にクセがある。そこがたまらない。独特の口調が人物の感じ、悲壮感、達成感、絶望感・・・等をうまくこっちに伝えてきてくれるのである。最も、この作品で一ヶ所だけわからりずらい場面があったが、歴史小説では少ない方だろう。その他の場面はいたっていい雰囲気なのである。読み進めやすいことがまたいい。資料の引用なども最小限である。5巻が長編とは思えないくらいテンポは速いのである。しかし、テンポが速いとはいえ、内容は濃い。私は何回か読み返している。

この作品はその後の私の史観に大きな影響を与えている。それくらいインパクトは強かった。それはいいことだったのではあるが、後々考えれば発表時期が少し早めだったので間違えているところも多く、後でちょこっと苦労した。とはいえそれを補うに十分な魅力がこの小説にはある。

織田信長小説はいくつか読んだが、「鬼と人と」を除いた一般名形式の物ではこれが1番良かった。「歴史小説を読んでみたいけどどれがいいかな?」と人に聞かれたら「まずこれがいいんじゃないか」と人に勧めるであろう。

短い文章すみません、とついでに言いたい筆者

DATA:講談社山岡荘八歴史文庫、織田信長

(初出:「戦国メディア市・第8回」1997.9.17)

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