というわけで、2回続けて小説を取り上げてしまうわけである。もっと言えば、次回も小説を取り上げる予定なので3回続けて、と言う事になる。まあよい。今回は、隆慶作品を取り上げてしまうわけだ。
隆慶――正しくは隆慶一郎。この日との小説に感銘を受けた人は親しみを込めてこう呼ぶ。それで、今回取り上げる作品は「見知らぬ海へ」 この人の代表的作品と言えば、「影武者徳川家康」や、書店で「売れてます」とよく出た「捨て童子・松平忠輝」 し・か・し私が最初に読んだのは「時代小説の愉しみ」だったりする。これは、エッセイ集と言った方がいいかもしれない。織田信長、武田信玄、北条氏康や明智光秀に対する独特の考えが刺激的だった。それに、他の文章もものすごく面白くて、私としては珍しく、2回一度に読み終わるまで肌身はなさなかった(いつもは1回読み終わると2回目以降は家で読んでいる)。
次に「影武者徳川家康」を読んだのだが、これまたぶっ飛んだ。この本の読後、徳川秀忠に対する見方がかなり広くなってしまい「読んだ事を後悔した」と思ったくらい影響力ある作品だった。これら2作品は、またじっくりと触れる事があるかもしれない。
その次に読んだのが「見知らぬ海へ」だった。私としては初めての隆慶未完小説であった。隆慶一郎氏は急死であったため、多くの未完小説が存在する。が、この本の読後以降向井正綱がものすごく好きになった、というよりもこれを読むまでは向井正綱など知らなかった。父と義兄が釣りをしている間に居城で玉砕。「魚釣り侍」と罵られつつも向井水軍を徳川水軍の中核としていく様、小田原の陣の際の活躍などがダイナミックに書かれているのだ。おそらく、水軍武将を書いた小説では、これの右に出るものはないだろう。
ついでに書けば、この次に読んだ「死ぬ事と見つけたり」はさらに面白いのに未完で「俺の寿命を10年差し上げてもいいから続きを書いて欲しかった」と思わせたのだが・・・・・・これはまた後日改めてゆっくりと。
DATA:講談社文庫、見知らぬ海へ
(初出:「戦国メディア市・第9回」1997.9.28)