2005年08月31日一覧

鉄道時刻表とズームイン!!朝!

 私は、結構地名を知っているほうだと思う。
 市以上の地名はだいたい頭に入っている。だから、日本全国津々浦々の出身地の人との初対面のとき、出身地を聞くや否や、名産物や駅前の話をすることが出来る。すると、相手さんも「よく知ってますねえ」と、嬉しくなって私を覚えてくれるようになる。人付き合いの苦手な私が、メンタル的な面を補ってコミュニケーションが成立できる一助になっている。
 それで、なぜ私はそうやって地名を知ることが出来たのか考えてみた。父母の郷里が北海道と鹿児島で日本を北から南まで認識する境遇にあったこと、中学受験で小学生のうちに中学レベルの地理を学ぶ機会があったこと(でも高校では地理は履修していない)、中学・高校時代に実際に日本各地を見てまわる機会をもてたこと。いろいろあるが、やはりその土地がどこにあるかというインデックスを形成し得たのは「時刻表」と「ズームイン!!朝!」にあるのかな、という結論に行き着いた。
 鉄道の時刻表が好きだった。もともと、電車が好きだったこともある。ただ、私が普通の鉄道好きの男の子と違ったのは、電車の車種や駆動方式のような「電車そのもの」よりも、路線や種別設定、鉄道会社に興味の重きがあったということである。メカよりも人の営みに興味が向いていたと今となってはいえようか。この駅はなぜ特急が止まるのか、なぜこの駅どまりの列車が設定されているのか。幼少期を過ごした土地にあった京王線や小田急線はその疑問を考えるのに飽きない題材で、当時あまり種別設定が今ほど複雑でなかった東京近郊のJRには、それら私鉄ほどの熱の入れようではなかった気がする。
 それでも、新幹線やブルートレインには興味があった。本を買ってもらい、それらの特急が止まる駅、どこからどこまで走っているかを何度も何度も読んで、まだ乗ったこともない列車と行ったこともない駅に思いを馳せていた。JRの特急は、すべての号がとまる駅と、特定の号しか止まらない駅とがあり、それらを不思議に思って眺めていた。特急や快速が設定されているということは、高速バスが圧倒的シェアで鉄道が役立たずという場合を除いて、その都市間の交流が盛んだとも読み取れる。その後、地方経済を学ぶときに役立つこととなる。各駅停車が多く走っている区間はそれなりに人が多いところであり、まったく走っていないところは人がいないところである。それら土地の人ッ気をそこはかとなく把握することが、今にして思えば出来たのだと思う。おかげで眼は悪くなってしまったけども。
 そうやって鉄道によって主要都市を知るようにしていったけども、県庁所在地と県名を知る機会となったのは「ズームイン!!朝!」である。生まれてから他局の朝番組は土曜日のNHKしか見た記憶がない。基本的に我が家は「ズームイン!!朝!」であった。
 この「ズームイン!!朝!」で、テレビ局には「県名+放送」「県名+テレビ」「道県庁所在地+テレビ」という名前のものが多いことが分かった(いずれも逆もある)。基本的に、中継テレビ局と同時に都道府県名も出るので、どれに当たるかはだいたい察しがついた。朝の明るい時間の中継なので、「ここは暑いな」とか、「ここは雪が凄いな」とか、そういった気象条件が分かるには十分であった。「ズームイン!!朝!」の立ち上げ時から20年間以上ディレクターを務められた齋藤太朗氏の著書の中には、同番組で人名や知名にすべて仮名が振ってあることから、「ズーム」を一生けんめい見ていた子供が社会科の先生に「日本中の地名とか、いろんなこと知ってるね」と褒められた…という視聴者からの手紙があったことが紹介されている。一つの県域局が県庁所在地だけではなく、いろんなところから中継して、仮名も振ってあれば「きょうはどこどこに来ています」と「読み」でも知ることが出来るわけだから、目と耳から入っていくわけだ。
 ついでだが、テレビの話題もまだ付き合いが浅い人との会話の中では有効な話題だ。その土地特有のテレビ事情、テレビタレントの話題をすれば多くの割合で好レスポンスが返ってくる。青森ならば笑っていいともの時間、福井ならサンプロの飛び降り、宮城ならさとう宗幸の夕方ワイドが強い話、山形ならさくらんぼテレビ開局の顛末、新潟ならTeNYのキャッチなど、土地特有のテレビ事情は多い。まだまだ庶民の楽しみだった名残がテレビにはあるから、その話題がその土地だけで共有されていることもある。その共有の輪に加わることの出来るチャンスなのである。
 その土地ならではの風土があり、その土地が育む人の独特さがある。それを楽しむ為には、別の手段でそれを楽しんでおくことである。鉄道趣味やテレビ中毒が、酒席を楽しくしてくれている。